主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹が先に戻り、山姫と一緒に台所で洗い物をしていた時主さまが戻ってきた。


その時晴明は自室で巻物を紐解いていて、晴明が何をしているのか一向に理解できない雪男は庭の池の人魚と談笑していた。


「晴明」


「ん?どこぞの馬の骨から私の愛娘の香りがするぞ」


「…さすがは妖狐。鼻が利くな」


「半妖だがな。そういえば氷樹が幽玄町に明日着くらしいぞ。知っていたか?」


「雪男から聴いている。…なんだその顔は」


――晴明がにやついているので瞳を合さずに隅に座ると巻物に目を落とした。


「雪男は息吹を氷樹に紹介するようだぞ。そなたも父上殿にしてみてはどうだ」


「…」


「健在なのは知っているぞ。どこに居るかは私にもわからぬが、そなたに代を譲った後どこかへ消えたそうだな」


「俺も親父が何処にいるかは知らない。別に用も無いしな」


「え!?主さまって…父様が居たの!?」


驚きの声を上げたのは、盆に人数分の茶を乗せた息吹だった。

いそいそと畳の上に盆を置くと晴明の袖を引っ張り、瞳を輝かせた。


「そうだよ。なんだい、木の股から生まれ落ちたとでも思っていたのかい?」


「だって今まで主さまの父様のお話を聴いたことがなかったから…」


「たいそうな美丈夫だよ。会ってみたいかい?」


「はい!」


――そう言われると父を捜し当てて息吹に会わせたくなったものの…放浪癖のあるあの父がこの国に居るかどうかも甚だしく疑問だ。

それよりも目下氷樹と自分との誤解を解いておきたい主さまは湯呑を手にしてちらりと息吹を横目で盗み見た。


「氷樹が明日俺の屋敷へ来る。息吹、明日は俺の屋敷に来い」


「え…でも…」


「俺が母さんに息吹を会わせたくて呼んだんだ。会ってやってくれよ」


「雪ちゃん…」


1人分冷たいお茶を淹れていた分の湯呑を手にして雪男が息吹の隣に座り、まるで許嫁を会わせるような言い草に主さまが渋面を作った。


「じゃあ…明日幽玄町に行くね。父様、一緒にお願いします」


「ああ、いいよ」


今度は山姫が渋面顔。
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