主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「父様…さっき私の部屋に来ました?」


夜になり、一緒に夕餉を摂っていると息吹が唐突にそう聞いてきたので晴明は頷き、すまし汁を啜った。


「布団を蹴飛ばしてはいないかと思って様子を見に行ったけどそれがどうしたんだい?」


「もうっ!さっき誰かが来た気がしたから…父様だったらいいんです」


――息吹を引き取った後さらに屋敷への結界を強めたので、自身で招き入れた者及び主さま級の妖でなければ入り込んでくることは難しい。


晴明邸ではいつもの直衣姿ではなく着物や浴衣姿の多い晴明は食事を終え、息吹に髪を梳かしてもらいながら腕を組んだ。


「何か気にかかることでもあったかい?」


「いいえ、父様しか居ないし私の勘違いです。明日は幽玄町ですね。ねえ、母様とはどうなったんですか?」


互いに隠し事を一切しない父娘は互いの色事に興味津々で、晴明は息吹の膝枕にあやかりながら愛娘を見上げた。


「“嫁に来い”と言ってはみたがまるでつれない態度をされて余計に燃えているところだよ」


「え?!母様に求婚したんですか!?父様早い!」


「そうだよ、そなたがもたもたしている間に父様に先に伴侶が出来てしまうやもしれぬぞ」


「そ、そっか…じゃあ、私も頑張りますっ」


主さまがこの光景を見たら確実に殺気を叩きつけられつつ嫌味を言われるのだろう、と考えると面白くて仕方が無くなり、息吹が頬を膨らませた。


「何がおかしいんですか?どうせ私には無理だって言いたいんでしょっ?」


「いやいや、男を見る目はあると思うがなにぶん主さまは助平な一面があるからねえ、用心するのだよ」


今まで多々主さまからあちこち触られた経験のある息吹が顔を赤らめると、父としての立場の自分がそれを嫌がり、つい同じように頬を膨らませてしまった。


「言っておくが私はそなたをまだ嫁には出したくないのだ。もしうまくいったとしても、花嫁修業をするだのなんだので理由をつけて先延ばしにしてもらえると嬉しいのだが」


「…うまくいくわけないもん。あ、そうだ父様、久々に道長様にお会いしたいです。明日の夜3人でお話しませんか?」


「ああ、いいとも」


日常を、噛み締める。
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