主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹が釜戸の前に座って湯を沸かしている間…


主さまはなんと声をかければいいのかわからず、少し離れた場所で腕を組み、壁に寄りかかっていた。



「…用がないならあっちに行ってて」


「…用があるからここに居る」


「じゃあ早く話してあっちに行ってて」


「…やきもちを妬いてるのか?」


「!」



ずばっと切り込んできた主さまの声は静かで、思わずびくっと身体が引きつった息吹は釜戸の中で揺れる炎を見つめながら早口でまくし立てた。


「な、何言ってるの、自惚れないでっ!」


「顔が赤いぞ」


「違うもん!火のせいで顔が熱いから…っ」


主さまが近付いてくる気配がして、固まって動けない息吹が顔だけふいっと背けると、主さまは息吹の脇に手を入れて持ち上げるとそのまま腕に抱き上げた。


「ちょ、や、やめ…っ」


「やきもちだろう?雪女が俺のことを好いていたから妬いてるんだろう?」


「違うって言ってるでしょっ!?主さま離して!」


「言っておくが、俺はお前を拾ってから女を食ってもいないし女を好いたこともない。俺にやましい部分などひとつもない」


「…私には関係ないでしょ。それにやきもちなんか妬いてないもん」


あくまで突っぱねる息吹の態度は主さまに笑みを浮かばせて、つい見惚れてしまうと腕から下ろしてもらい、頬を軽く引っ張られた。


「いひゃいよ」


「氷樹の態度を見ただろう?あれは今後生涯ずっと雪男の父だけを愛する。雪女や雪男はそういう妖だ。…ちなみに俺も…」


「?」


つい口が滑って告白しそうになってしまい、意外と場所や雰囲気にこだわる主さまは息吹の額を指で弾いた。


「何も誤解するな。俺はお前を育てるのに日々を費やしてるんだ。女を好きになる余裕などない」


「…私を育ててくれたのは父様だもん」


「四の五の言うな。早く戻って来い」


欠伸をしながら広間の方へと戻って行く主さまの背中を見送り、雪女にやきもちを妬いていた自分自身を認めながらも今後を思うとついため息が出た。


「主さまの馬鹿…」


もてる男を好きになってしまい、後悔。


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