闇夜に笑まひの風花を

色合いの綺麗な山と、キラキラと水面を輝かせる湖。
ぼつりと建つ、小さな一軒家。

まるで絵に描いたようなのどかな光景。
その中に溶け込むように、一人の女性が湖のほとりに座っていた。

最初に目に付いたのは、赤茶の長い髪の毛だった。
背中を流れたそれは、地面にまで広がっている。

ぼうっとそれを見ていた私を、彼女はふと振り返った。
驚きもせず、向けられたのは笑顔。
淡紅色の瞳が、優しく細められた。

『いらっしゃい、アンジェ』

アンジェ、と彼女は呼んだ。
私の名を。
私は、何も言っていないのに。

『あなたは?』

これが夢なのか現実なのか、私は判別しかねていた。
意識はまだ、ふわふわと浮いている気分。

そんな私に、彼女は微笑みかける。
何もかも、すべてを知っているかのように。

『死者の蘇生を行った者よ』

私は彼女を食い入るように見つめた。

おこなった。
死者の蘇生を。
自らの生命と引き換えに。

『じゃあ、亡くなった人ってこと?』

『そうね。確かにここは現実世界とは違うから、一応死んだってことになるのかしら』

わけが分からない。
彼女は何を、言っているの?

『でもね、私は死んでいない。肉体はもうないけれど、私はずっと私のまま。
蘇生を行った者は、死ねないのよ』

死ねない?
死んでいるのに、死ねない?

何がなんだかよく分からなくて、頭がぐるぐるとしてきた。

『分からなくて良いわ。私自身、よく分かっていないもの。
とにかく、私はずっとここに居るの。何も変わらない、この世界に』

宥めるように頭を撫でてくれる手。
懐かしいような瞳が、寂しそうに見えた。

『ひとりぼっちなの?』

『そうよ』

『寂しくない?』

こんな、静かな世界で。

その世界は音がなかった。
風も吹かなければ木もざわめかないし、そもそも生き物の気配が一切ない。
鼓膜を揺らすのは、彼女の声だけだった。

『私は、この水面からあなたたちを見てるから』

それは、寂しくないのだろうか。
見てるだけなんて、余計に寂しいんじゃないだろうか。

アンジェと同じ寒さを感じて、同じ景色を見てるから。

そのときの彼女は、ナノがそう言ったときと同じ表情をしていた。
口元は笑っているのに、目に寂しさが揺れている。
誰にも見つからないように隠しても、色の違う瞳がそれを教えてくれる。

『私がここに居たら、寂しくない?』

ハルカさまと同じ色の髪が揺れた。
それに囲まれた、端正な顔。

そこに隠された寂しさを無視することは、できなかった。

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