大切なもの
「――……沙和」
「っ!」
後ろから聞こえた声は、樹のものだ。

私は先ほどと同様に、笑顔を見せる。
「お疲れ様、樹!」

泣いちゃったら……迷惑になる。
樹は試合で疲れてるんだもん…、負担になりたくない。

「…何かあったのか?」
「…え?」
「俺をその作り笑いで騙せると思った?」
「つ、作り笑いなんて…」
「…颯太は騙せても、俺は……気づくよ」

どうして…気づくのかな。
颯太は、ずっと…ずっと。
私のこの笑顔に、気づいてくれなかったのに。

「苦しいなら、無理に笑うな」

どうして…樹は、気づくのかな。



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