私は猫
「なかなか似合ってるよ、日向」
「ヒナって呼んでって言ってるじゃない」
あれから私は京に指名されて、席に着いた。
相変わらず日向と呼び続ける京に、私は声を小さくした。
「ヒナ、かぁ。もっとマシな名前なかったわけ」
「…っうるさい」
すっかり京のペースだった。
いつも涼しげで憎まれ口ばかりの京。
だけど、どこか居心地がよくて、真っ直ぐ私を見てくれる京が大好きだった。
「お飲み物は」
「なに、カクテルもあるの。じゃあテキーラサンライズ2つ」
「かしこまりました」
私は平然を保とうとしながら、陸さんに注文を伝えた。
「ヒナ…はさ、上京して何してんの」
「別に…何か目的があって上京したわけじゃないんだ」
「そうか。じゃあ僕と別れたのもそんな簡単な理由だったの」
「…違うっ!」
私は思わず京の腕を掴んでしまった。
「知ってるはずでしょ。咲瑛が京に言っちゃったって聞いた」
「確かに聞いたよ、理由」
「じゃあいいじゃない」
「僕が納得してない」
京はスッとした薄めの唇を少し上げながら言った。
陸さんが飲み物を運んできてくれて、私は一旦話をやめる。
「せっかく再会したんだ…乾杯」
「乾杯」
私はこの再会がこれから引き起こすことなど
乾杯の音に消されて予想しているはずもなかった。