私は猫
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「京、言いたいことがあるの」
高校3年になってすぐ、私は京を呼び出していた。
桜が咲き誇る学校の坂道
私は風に煽られ舞う花びらを髪からすくった。
「なに、どうしたの」
「私、他に好きな人できたんだ…」
今までの穏やかな空気が一瞬にして消えた。
笑っていた京も顔を引きつらせる。
「日向、何言って」
「ごめんなさい。京、別れて」
私は、自分の存在が邪魔に思えた。
この前進路指導室で、有名な最難関大学の過去問集を持っている京を見かけた。
その時だった。
卒業したら家出しようって思っていた自分。
一番近くにいる人は、私とは全くの別世界にいるような気がした。
京……
私、離れるね
勉強の妨げになるし、
隣にお気楽な私がいたら迷惑だよね…
私は嘘をつくことにした。
好きな人ができたって
そう言えば、京は私のこと嫌いになるだろうし
これでいい、と思った。
私の言葉を聞いて京はそれ以上何も言い返してこなかった。
呆れた…かな。
でもこれで京も受験に集中できる。
両親の期待を背負ってるんだから、京は…。
私はいつのまにか泣いていて、
しばらくしてそこを立ち去った。
それから京とは校舎が離れ、顔を合わせることも減った。
私は京を好きな気持ちを押さえられなくなりそうだったが
それ以上にお父さんのこと、家族のことが深刻になって
私の心はどこか冷たくなっていた。