私は猫
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「ようは僕のこと嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたわけでもなかったんでしょ」
京はグラスを揺らしながら、私をじっと見た。
「そうだけど」
「確かにおかげで受験は成功。国大の医学部首席だよ。でも僕の気持ちはどうなるのさ」
「やっ…、京やめて」
京が私の腰に腕を回す。
着物越しに伝わる体温がとても怖かった。
今まで積み上げてきたものが崩れ去るような感覚。
目の前が揺らぐ私、それを見透かす京。
「ねぇ、日向。やり直そ」
耳元で甘く囁かれる、京の声。
私は黙って首を横に振る。
「…ふ、顔真っ赤。かわい」
力が抜けそうだった。
昔の感覚、京の匂いだとか。
私は我に返り、スッと席から立ち上がった。
「お客様、お水をお持ちしますね」
私は一礼してバックルームに向かった。
一旦自分を落ち着かせよう、と私はそそくさと歩いた。
「どうしたの、ヒナ。だいぶ酔ってるみたいだけど」
バックルームにはママと陸さんがいた。
陸さんは私に駆け寄ると、私の顔を覗き込んだ。
「珍しいね、顔。客足も少なくなったし、気持ち悪くなるようだったらもう上がったら」
ママも心配そうに私を見る。
「大丈夫ですから。少し喋りすぎてしまって」
「…そう。大丈夫ならそうしてちょうだい」
「はい」
私はお水を持って、京のいるテーブルに再び向かった。