私は猫



***



「ようは僕のこと嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたわけでもなかったんでしょ」



京はグラスを揺らしながら、私をじっと見た。



「そうだけど」



「確かにおかげで受験は成功。国大の医学部首席だよ。でも僕の気持ちはどうなるのさ」



「やっ…、京やめて」



京が私の腰に腕を回す。



着物越しに伝わる体温がとても怖かった。



今まで積み上げてきたものが崩れ去るような感覚。



目の前が揺らぐ私、それを見透かす京。



「ねぇ、日向。やり直そ」



耳元で甘く囁かれる、京の声。



私は黙って首を横に振る。



「…ふ、顔真っ赤。かわい」



力が抜けそうだった。



昔の感覚、京の匂いだとか。



私は我に返り、スッと席から立ち上がった。



「お客様、お水をお持ちしますね」



私は一礼してバックルームに向かった。



一旦自分を落ち着かせよう、と私はそそくさと歩いた。



「どうしたの、ヒナ。だいぶ酔ってるみたいだけど」



バックルームにはママと陸さんがいた。



陸さんは私に駆け寄ると、私の顔を覗き込んだ。



「珍しいね、顔。客足も少なくなったし、気持ち悪くなるようだったらもう上がったら」



ママも心配そうに私を見る。



「大丈夫ですから。少し喋りすぎてしまって」



「…そう。大丈夫ならそうしてちょうだい」



「はい」



私はお水を持って、京のいるテーブルに再び向かった。



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