私は猫
「すみません、お待たせして」
私はにこやかに京に近づくと、京は面白くなさそうな顔をした。
「そんな態度取ってると、日向の歳ばらすよ」
京の薄笑いは冗談なのか本気なのか分からなかった。
「やめてよ、そんな」
「どうして、僕のこと好きなくせに」
私は相変わらずの京のペースに落ちていきそうだった。
「あと閉店まで1時間ないから…終わったら外出てちゃんと話そう」
「了~解。それまで相手してよ、ヒナ」
「はいっ。お聞きしたかったんですけど、なぜこちらにいらしていたんですか」
「ぷっ、なにそれ。…教授に気に入られてね、1年だけど休暇中に病院に研修さ。今は朝比奈病院にいるんだ」
私は飲み物をこぼしそうになった。
「あ、朝比奈なんだ。…あぁ、そうなんですね」
「その口調やめたらどう。まぁ、そうだよ、今日は病院からの帰りで教授の知り合いの家に下宿。ホント偶然、日向に会えたの」
「今日もお勤めご苦労様です」
私は苦笑いで飲み物を継ぎ足した。
鷹さんにはお見舞いに行くと伝えてしまったし、もう行かないわけにはいかない。
京に会わないことを祈るしかないなぁ。
私はそう思いながら時計をチラリと見た。
「今日は帰らないって連絡しちゃった。ねぇ、日向ん家泊めて」
耳元で囁く京。
私は顔がカァっと赤くなるのが自分でも分かった。
「お客様!…京、いいけど、でも、そんな…」
菜々子さんにバレたらとんでもない騒ぎになるどころか
ここで働き続けることがあぶなくなってしまうかもしれないのに。
京の方をちらっと見ると、
いつもの涼しげな笑みを浮かべていた。