私は猫
「じゃあ僕はそろそろ帰るから」
京はそう言って帰り支度を始めた。
「日向、ケータイは」
「あるけど、これは貸してもらってるもので」
私はテーブルに置きっぱなしのケータイを眺めた。
「僕から連絡する分には構わないでしょ」
「そう、だけど」
京は私の番号を登録すると、ケータイをポケットにしまった。
「日向」
振り向いたら不意に京に抱き締められた。
「さっきは言い過ぎた。あれは僕の高校の時からの夢だったんだ」
「夢…」
「そ。付き合っている頃さ。再会してまたそれが戻ったような感覚になったんだ」
京が腕に力を込めた。
「今だから分かるよ。日向にも日向の人生がある。僕のものじゃない…もちろん、僕のものにしたいけどさ」
京は自分を嘲笑うかのように鼻をならした。
「そんなこと思ってたんだ」
「可愛いでしょ。僕も多少は大人になったんだ、待てないガキじゃない」
「うん、ありがとう」
それじゃあまた連絡するから、と言って、京は部屋を出ていった。
私はしばらくはそこから動けないでいた。
京の夢…聞いた時はとても嬉しかった。
同時に自分のことばかりな自分が情けなく感じた。
私…いつまでこうしているんだろう。
いつまでも流れに身を任せてはいけないんだ。
私もそろそろちゃんと考えなくちゃいけないんだ。
自分から家を飛び出しておいて、いろんな人に迷惑をかけて。
…ママに話さなくちゃ。
私はそう心に決めたのだった。