私は猫
「昨日、高校の時に付き合ってた元カレに会いました」
いつものマグに飲み物を入れて、私は話し始めた。
「お客さんをお店の前でお見送りしていたんです。そしたら、たまたま研修でこっちに来ているみたいで。そのままお店に」
「えっ、あの昨日のお客さん…鷹さんの後の」
菜々子さんが目をパチパチさせた。
「そうなんです。家泊めてって言われて。嫌いで別れたわけじゃなくって、私もゆっくり話したかったから、断りませんでした」
「それの流れで、ねぇ。ヒナにもそういうことあるのね」
「ちょっと、どういう意味ですか」
私はおかわりを注いでまたソファーに戻った。
「こんな職業だとさ、そんな話は腐るほどあるんだよ。世間的にはよくないかもしれない。でも、人より機会が多いと自然と経験も増えるってこと。だから気にしなくても…」
菜々子さんは黙り込む私を見て話すのをやめた。
「なんか変なこと言った」
「そうじゃなくって。確かに仕事も関係しているんですけどね、私は何をしているんだろうって思ったんです」
菜々子さんは首を傾げた。
「私、半年前にママに声をかけてもらって働いているんですよ。家出してきてるんですから。仕事は楽しいし、私は今はこれでいいと思っています。家族ともそのうち話し合うことも考えてます」
私はマグの水面に映る自分の顔を見た。