【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「遅くなりました。
 結城と申します。

 受付が終わってしまっているので、
 こちらをお渡し願いますか?」


そう言って、
ご祝儀をゆっくりと手渡す。



「新婦、祐天寺様のお知り合い
 結城神楽さまですね。

 西宮寺様より、体調を崩されて休まれていると
 連絡を頂いております。

 お加減は宜しいのでしょうか?」



係りの人はそう言って私を気遣いながら、
ご祝儀を預かって、
会場内に入れるタイミングで
扉を開ける。




ステージ中央。



お色直しの真っ赤なドレスに
身を包んだ、
その人は私を捉えるとほくそ笑む。


その隣の恭也は、
戸惑うような視線を向ける。





その二人の傍に着飾って近づく
二人組。




真っ直ぐにステージに用意された
ピアノへと向かっていく。





「藤本結愛と冴香。
 なんであの二人が……」



文香が心配して私を見る。



「祐天寺がスポンサーだから」


そう呟いて、
私はたた静かにその時間の中に
身を委ねた。




不思議と私を捨てた母親と、
両親の愛情を一身に受けた妹の冴香。


二人を目にしても、
苦しくならなかった。



今の私には、
比べものにならないくらいの
痛みが……続いているから。



二人の方を見れば見るほど
心の中が苦しくなる。



披露宴が終わって、
新郎新婦が退場すると、
私は少しでも早く逃げ出したくて
席を立つ。



だけど最後の難関が待ってる。



ゲストの見送りに会場の出入口に立つ
二人の前を、
何事もないように通り過ぎること。



心身共に1日も経たない間に
ボロボロになってるその体を必死に踏み出して
二人の前を通る。



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