【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
慌てて電話を切った俺に、
義父が「どうしたんだね」と問いかける。
「すいません。
呼び出しです。
っと言っても、神前じゃないんですけど。
親父の患者さんが、俺を頼ってくれて」
そうやって、
ありもしない嘘がサラサラと飛び出す。
「そうか。
行ってあげなさい。車を寄せろ」
義父はそう言って運転手に車を寄せさせる。
「お父様、
患者なんてどうでもいいじゃない?
恭也様が行く必要がどこにあるの?」
そう言って、ごね続ける女。
「昭乃。お前も医者の妻になったんだ。
少しは恭也君の仕事を理解しなさい。
恭也君を慕ってくれる患者は、
これからの多久馬総合病院の未来を助ける
そんな存在だ。
地域の住民あっての、病院なんだよ。
行きなさい、恭也君」
祐天寺氏は、そう言うと
女を押さえつけたまま、
俺が車を飛び出しやすいように
協力してくれる。
そのまま車を飛び出して、
俺はタクシーを捕まえると
勇生たちの暮らす
マンションへと向かった。
良心が痛まないわけじゃない。
だけど……
今は神楽さんを
この腕で抱きしめたかった。
勇生のマンションにつくと、
慌ててルームナンバーとチャイムを鳴らす。
「勇生」
「開けるよ」
声が聞こえる、
ガラスのドアがゆっくりと開く。
そのままエレベーターに乗り込んで、
勇生の自宅へと向かった。
部屋の前でチャイムを鳴らす。