【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
この部屋の奥に、
神楽さんがいる。
それだけでチャイムを
押す指先が震えた。
「入れよ。
良く抜け出せたな」
「急患装った」
そう言って返す俺に、
勇生は笑った。
「そうやってまた、甘えろ。
外で会いづらいなら、
俺たちの家を貸してやるから」
そう言って勇生は
俺をマンションの中にあげた。
「いらっしゃい、多久馬君」
そう言って姿を見せたのは、
勇生の奥さん、美雪嬢。
「大変ね。
多久馬君の恋愛は。
今、彼女……奥の部屋で冬が遊んで貰ってるわ」
そう言いながら彼女はキッチンで
お茶を準備した。
「美雪、冬を連れて来て」
「えぇ」
そう言うと、美雪嬢は
部屋の中から子供を連れ出してくる。
もうすぐ四歳になる
二人の息子、冬生だった。
もう受験勉強の準備に忙しい。
「冬生、神楽お姉さんに
遊んで貰ったお礼を言った?」
「いったよ。
ゲーム、ぼくがかったよ」
「そうか。なら今度は、
お父さんと対戦しような。
けど今日は今から出掛けるぞ。
じいちゃんと、ばあちゃんに会いに」
「やったぁー。
じーじと、ばーば。
おもちゃかってくれるかなー」
そうやって無邪気に笑う冬生の頭を
勇生はガシガシと撫でつけながら
抱き上げた。