【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「今日は好きに使え。

 冬生に話した通り、
 俺たちは実家に帰る。

 たまには帰ってやんないとな。
 受験に受かったら、
 こいつは神前悧羅で寮生活だからな」


そうやって勇生は話した。



親友たちの子供は、
もう四歳になるんだな……。


三人を送り出して、
玄関の鍵をかけると、
俺は深呼吸をして、彼女が待つ
その部屋へと向かった。



トントンっとノックをする。



「神楽さん、入るよ」




そう言って、部屋の中に入った途端に
神楽さんは俺に笑いかけてくれる。



思わずその体を抱きしめる。



「会いたかった。
 神楽さん、傷つけてごめん。

 それに……」


そう言いながら、
神楽さんのお腹に視線を向けながら
そっと手で触れた。


「知ってたの?」

「ごめん……。
 俺が勇生を問い詰めた。

 アイツは何も悪くないよ。
 悪いのは全部、俺だから……」



許してくれなくてもいい。


許してくれなくてもいいから、
今は、
神楽さんを感じさせて。





抱きしめる腕に、
力が入る。






俺が相当負担をかけたのがわかる
神楽さんは、
少し痩せたみたいに思えた。




「ちゃんと……食べてる?」



何言ってんだよ。
そんなことが聞きたいわけじゃない。


「大丈夫よ。
 それより……恭也……は?」


あんな目に合わせたのに、
今も俺の心配をしてくれる神楽さん。



「大丈夫だよ……。

 神楽さんが
 この手の中に居てくれるから」



そう返すと彼女は、
俺に自分から抱きしめ返してきた。




「触れていい?」



問いかけた言葉に、
静かに頷く彼女。
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