【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「お母さん、これ受け取ってあげてください。
 クラスの子たちが、真人君の為に折った千羽鶴です」


担任の先生がそう言うと、
列の中から二人、男の子と女の子が前に出て来て
紙袋を私の元へと差し出した。


ゆっくりと手を伸ばす私。




「有難う。
 真人も喜ぶと思うわ。

 元気になって帰ってきたら、
 また仲良く遊んであげてね」



自然とそんな言葉が零れ出た。



「神楽ちゃん」



そんな私に近づいて、背中を支えるのは
久し振りに見た勇生君。



離れていた間に、
勇生君も凄く落ち着いたように感じた。



「おっ、千羽鶴。
 真人君の為に有難うな。

 おじさんたちが、
 真人君と一緒に病気やっつけてくるから
 元気になったら、また頼むぞ。

 さっ、準備できたから行こうか」


勇生君に促されて
頷くと、そのまま私はヘリの方へと歩いて行った。



待機していた消防の人たちが、
生徒たちを安全圏へと誘導していく声が聞こえた。



ヘリの中には、すでに横たわる真人。

真人の周辺には
沢山の医療器具が準備されている。


先にヘリに乗り込んだ勇生君は、
マイク付のヘッドホンを着装。

同じものを勇生君から手渡されると、
同じように私も着装した。



外からヘリの扉が閉じられて、
離陸する旨の情報が、
ヘッドホンから流れる。



ヘリで飛行している間、
お互いの声をやりとりするのは、
このヘッドホンみたいだった。


浮遊感を感じて離陸すると、
ヘリは広い空を飛び始めた。





勇生君は、
真人の様子を真剣な眼差しで見つめながら
前の病院から預かって来た
資料に目を通していく。




そんな勇生君をただ
黙って見つめていた。





「神楽ちゃん。

 そんな状態じゃ、恭也が心配する。
 
 真人君は見てるから、
 神楽ちゃんも少しは休まないと」



そう言いながら、
手慣れた手つきで、
私の脈に触れる勇生君の指先。


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