【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「思った通りだ。

 触れるけど、弱いね。
 血圧、低いんじゃない?」


「血圧?

 だって今、脈に触れただけ……」

「脈に触れるだけでも、
 だいたいはわかるよ。

 手首が触れたら80mmHg以上。
 足の付け根は60㎜Hg以上。

 首が触れたら40~60mmHg程度ってね。

 まっ、詳しく調べることも出来るけど」


「あっ、それはいい。
 元々から血圧低いし」


慌てて切り返すと、
勇生君の手が伸びて来て、
おでこを弾いた。


俗に言うデコピン。


慌ててデコピンされた場所を
両手で押さえる私を見て
少し笑った勇生君は、
また真人の様子を
気にかけるように真剣な表情へと戻った。


緊張でガチガチになっていた
私自身が、少しずつ解されていく。

ムードメーカーの勇生君は
今も昔も変わらないんだと
気付かされた。





その後、着陸する旨がヘッドホンから聞えると、
ヘリはゆっくりと屋上らしき場所へと下降していく。



そこにはすでに、
待機していた病院のスタッフの姿が見えて
ヘリの扉が開くと同時に、
勇生君が指示を素早く出して、
真人が建物の中へと運ばれていった。




「ほらっ、神楽ちゃんも。
 ヘリの中、大変だったでしょ」



そう言って私の方へと手を伸ばした。

ヘッドホンを返して、
差し出された手をとって
ヘリから降りる。


ただそれだけの行動なのに、
少し立ちくらみをしてしまう自分の体。

多分、そうなるのも見通してたっぽい勇生君は
そのまま私を支える。



「神楽ちゃんもちょっと休まないとね。

 真人君は、安心して任せたらいいから。
 お母さんが休まないと、真人君が心配する。

 それに恭也にも、今の神楽ちゃんは見せられないよ」


勇生君はそう言うと、
私を抱き上げて、
何処かの部屋へと連れて行く。


そのままベッドに寝かせると、
処置だけして部屋を後にした。



規則正しい点滴が、
疲れすぎている体に眠気を誘う。




そのまま眠りの中へと誘われてしまった私が
次に目を覚ましたのは、
周囲が真っ暗になった夜。



「真人っ!!」



慌てて体を起こした途端、
ふらつく体。


ふらついた体をそっと支えてくれたのは、
ずっと会いたかった……
今も忘れることのない大切な人。


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