【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




「もう夏休みになるでしょ。

 夏休みになったら、うちの息子帰ってくるから
 あってあげて。

 子供が小さい時間なんてあっという間よ。 

 私も勇生も、仕事に必死で
 殆ど家族の時間を取れなかった。

 気が付いたら、もう冬生も高校生よ。

 ずっと学校で寮生活ばかりさせていたから、
 冬生の成長過程も、写真でしか知らない。

 私も勇生も、親失格なのよ。

 だから……真人君を大切に思う
 神楽さんのことは、
 ちゃんと出来る事を協力したいって思うの。

 子供ってね、凄く親の事には敏感よ。

 小さな子供子供ってバカにしてても
 純粋だからこそ、沢山親の事を見てるの。

 だから真人君に、お母さんの心配をさせないであげて。
 神楽さんの不安は、恭也君でもいい。

 恭也君が無理なら、
 私や勇生がちゃんと支えるから。
 
 親友を助けるのも、
 たまにはいいでしょ」



美雪さんは
そんな風に私に話しかけた。



親友って言われる響きも
くすぐったい。




美雪さんたちの優しさは、
それでも私にとっては、諸刃の剣だよ。


嬉しいのに、情けなくて
ただ涙だけが溢れだした。





「さっ、私も仕事に戻らなきゃ。

 私ね、冬生には仕事してる姿しか見せてないの。

 だからこそね、冬生が誇りに思ってくれるような
 そんな仕事をして、ちゃんと背中を見せていきたいって
 思ってるの。

 神楽さんは、もう少しベッドで休んでて。

 真人君、昼頃まで病室には戻ってこないから」



そう言うと内側から
ドアノブに手をかける美雪さんの背中に
私は、声をかける。




「みっ、美雪さん……」

「何?」

「子供は親の事をちゃんと
 見てるって美雪さんはいいました。

 だったら、冬君もちゃんと見てたんじゃないかな?
 お父さんとお母さんが必死に働いてる仕事。

 だから……二人とも、
 冬君にとっては、
 かけがえのないお父さんとお母さんだよ」




何でそんなことを
言いたくなったのかはわからない。

だけど……そんな風に思えた。



「有難う。
 ゆっくり休んで。

 アナタも、真人君にとっては
 かけがえのないお母さんなんだから」



美雪さんはそう言うと、
病室を後にした。



一人になった広い病室。



私は言われた通りに、
今は真人に心配かけないように眠ることが
仕事なのだと言い聞かせて
ベッドに横たわる。



目を閉じていた間に
懐かしい夢を見た。




子供の頃の懐かしい夢。



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