神の森

「桜・・・・・・神の森に相応しくない名前だな」

 冬樹は、冷たい視線を祐里に向けた。


 冬樹は、幼い時に母を亡くし、

春樹が毎日神の森の外れで会っていた小夜を木陰から見るにつけ

母親のように慕っていた。


 その甘い想いがいつしか初恋に変わっていた。


 七つ年上の春樹は、万事が冬樹よりも先行し、

冬樹は、後を追いかける事しかできなかった。


 自己の不甲斐無さと恋い慕う小夜を連れて姿を消した

春樹の身勝手さへの怒りがふつふつと蘇った。


 春樹が行方不明になってから、森の長たちが『冬樹を後継者に』と

声を揃えて進言するにも拘わらず、

未だに八千代は、春樹を忘れられずに娘の祐里を捜し出して戻って来た。


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