神の森
 
 そして、今、神の森がこの得体の知れない娘を必要としたのを

目の当たりにした。


 冬樹は、春樹に対する悔しさでこころが漆黒の闇に滾っていた。


「何故でございますの」

 祐里は、冷ややかな敵意を感じた。

 父の優しい声の思い出を壊された気がした。


「桜は、神の森を枯らす樹だからな」

 冬樹は、春樹への怒りから祐里に冷たい言葉をぶつけながら、それでいて

視線を反らしていた。

 小夜の優しい笑顔がこころの奥からじわじわと蘇ってきていた。


「そのようなことはございません。

 桜の樹は何時も私を守ってくださいました」

 祐里は、驚いて冬樹をしっかりと見つめる。

 桜が神の森を枯らす樹であるならば、

初めから神の森は、自分を排除する筈だと祐里は思った。



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