亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

ランプの明かりに透かして見ると、赤く濁った色がぼんやりと見えた。

「……………これが…空の魔石?」

リストは首を傾げた。二本の指で挟んだ小さな赤黒い石。その辺に転がっていそうな、何の変哲も無い物だが。

「ええ、そうです。とても貴重な代物でして……言っている側から捨てないで下さいオーウェン様!!…………とにかく……この空の魔石、今は単なる小石に過ぎませんが………一度黒の魔力に向けると、それらを全て吸い込むことが出来るのです」

「………一度吸い込んだら…それで終わり?……使い捨てか?」

オーウェンの問いにアレクセイは頷いた。

「その通り。一度しか使えませんので、よく考えて下さい。……黒の魔力以外にも様々な力を吸収するらしいですが………まだよく分かっておりません」

「………秘密道具も使い様、か……。…………さ―て……軍議に移りますか。………もう時間は無えぜ。二日後と迫っているからな……」


あっという間朝が来て、夜が来る。そしてまた、朝が来る。

時は早い。

止まることを知らない時間の波は、容赦無く押し寄せて来る。

心なしか、兵士達の中でも緊張の入れ混じった空気が漂ってきている様にも思える。

リストがビシッと真直ぐ挙手をした。オーウェンは指を鳴らして発言を促した。

「ブレイズツリーの樹液のことですが………敵が目指すのは城。なので、侵入出来ない様にするのがまず第一かと。そのために、樹液は城壁に撒いた方が得策かと思います」

アレスの使者は“闇溶け”で壁を擦り抜ける。城壁もそうやって難なく越えて行けるだろうが、その城壁自体が燃えているとなると、侵入は容易にいかないだろう。


< 881 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop