亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「城に近付けば近付く程、“闇溶け”が無効になり、侵入し辛くなるわけか。………良い案だ。しかし樹液は残り少ない。……城壁に撒くとなると、半分は無くなるな。その時の状況によっては、無駄になるかもしれない」

一番奥で、始終黙って聞いていたキーツが、口を開いた。
手にしている空の魔石を弄りながら、地図を見下ろす。

「昨日アレクセイと考案したのだが………火を吹ける様になったワイオーンの牙に、樹液を塗っておくのはどうだ?」

「………あの前に飛び出た牙に?」

オーウェンはワイオーンの顔を思い出し、首を傾げる。

「前の二本の牙だけだ。樹液から発生した火はなかなか消えない。ワイオーンが火を吹けば、それを浴びたものはしばらくの間…何をしようとも消火出来ない訳だ。………下手をすると、そのまま焼け死ぬかもな。これは火を吹くワイオーンだからこそ出来ることだ」

「………いいですね。そうすれば服が燃えて……“闇溶け”が出来ない状態になる…」

その方が樹液の消費も少ないし、効率が良い。
ワイオーンをどう動かすかが要となるだろう。

「その辺はオーウェンに任せるぞ。………あと、俺達幹部の配置だが………リストは塔の屋上。以前の様に戦場の状況や監視をしてもらう。オーウェンは前線だが、最初は城門前待機。状況に応じて動いてくれ。アレクセイは城壁内だが……無理はするな」

いくら戦闘に長けているといっても、もう老人だ。
無理はさせられない。アレクセイは文句の一つも言わずに、ただ静かに頷いた。


「俺は最初城壁内。そして後から戦場に出るつもりだ」

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