亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………何でもないよ……ルア」

横たわるローアンが涙を浮かべているのを、ルアが心配そうに下から覗き込んでいた。





………あの夜の……生々しい情景が………………鮮明に蘇ってきた。



転がる首。胴体。肉に食らいつくライマン。赤い水溜まり。妖しい光沢を放つ刃。冷たくなった姉様。私を抱き締める母様。


目の前にいる、白い髪の男。
ニヤリと笑う、あの男。


クライブ=フロイア。








「…………総団長…」



ゆっくりと起き上がり、城の光が差し込む窓辺に近寄った。

……吹き込む風は刺す様に冷たかったが、構わず窓を開け放った。背後でルアがブルッと身震いしていた。


……………城の光は相変わらず、暖かな柔らかい光を放っている。…この光は、月光に似ている。

闇を打ち消すのではなく、闇と共存し、夜を照らす………。




「……………六年も…あのまま……………」




なんて、孤独なんだろう。
屍を、憎悪を、元凶であるかもしれない石を……全てを抱え込み、静かに眠る城。


孤独な城。





……時々、あの城が無ければ…と考える。

この戦争の中央にそびえ立ち、グルリと囲んだ国の民から様々な視線を注がれている。それには良いものもあれば、あまり良くないものも含まれ………見る者によって、あの城は何にでもなる。様々な象徴と化す。





(…………空白の玉座を守る………無意味な城。……………………亡國の……………孤城……………)





………なんて寂しい遺物だろうか。





(………封印を解く事が………正しい道なのだろうか……)


鍵である自分には、城を開けることしか出来ない。それ以上の存在価値は、無い。
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