亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………つい先日まで知らなかったが……。
………あの夜、エルシア姉様も既に亡くなられていたのだ。
私の知らない所で、勇ましく剣を掴み……………ベルトークに、殺された。
…………それはオーウェンが話してくれた。彼は笑っていたが…………とても、悲しそうだった。
母は………母様は………どんな風に亡くなられたのだろう。
恐怖に打ちのめされ、半ば意識が無かったためか……あまりよく覚えていない。
抱き締めてくれた母の暖かさと香り。
………死ぬのは怖い。
………死にたくない。
………死にたく、ない。
あの時は、絶望しか無かった。
地獄絵図の先には、何も見えなかった。
…………目を瞑ってしまおう。
そうすれば、何も見えない。
何も、見なくていい。
………何物からも、解放される気がした。
………でも………もっと………もっと…本当は……光を見ていたかった。
………もっと笑って…泣いて…走り回って……息をして………。
………ジワリと、目頭が熱くなった。
まだ10歳になったばかりの幼子が……死に際にそんな事を考えていたと思うと………自分の事なのに、何だか………悲しい…。
あの時涙した様に、今この時も………熱い涙が瞳を潤した。
そんな、死を覚悟した時。
………取り囲む絶望の先に、私は確かに見た。
………その瞬間、身体の震えは止まったのだ。
嬉しくて……嬉しくて……………。
…………最後に会えて………。
………掠れた声で、彼を呼んだ。
それ以上は何も、望まなかった。