亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「……………『時』の前日の夜更け………君には、忍んでこの丘から離れてもらう………」
ローアンが一瞬だけ顔をしかめたのを、キーツは見逃さなかった。
「………隠れていろだとか、大人しくしていろだとか………その辺りを言われると思っていたのだが…………戦場離脱か………予想外だな………」
…不服な様だ。王族でありながら、兵士でもある彼女にとって、戦場からの離脱は決して望ましいものではないだろう。
キーツにとっても、離脱など、考えられない。それは逃亡と同一である。………だから、彼女の不満は痛い程分かる。
「………敵の狙いはまず、鍵である君だ。クライブもその下の連中も、最初に君を捜し始めるだろう。………君がここを離れる事は、敵の動きを鈍らせるのと同時に………君を、守ることにもなるんだ…」
「………………守る…?…………ふん…」
自嘲的な笑みを浮かべ、再度窓の外に目をやった。
「…………………私は………守られてばかりだな………………………………………嫌だ。……その策にのることは出来ん」
「………ローアン…」
断られる事は分かっていたが……。
眉をひそめ、キーツはこの頑固な姫君を説得すべく口を開いた。
「……………その気持ちは分かる。……だが……我々としてはまず君の身の安全を第一に考えなければならないんだ。………あまり我が儘を言わないでくれ……」
「…………この身くらい、自分で守れる………!………………私も………剣を握る兵士の端くれだ………!」
「………だが………兵士である前に、君は我々が守るべき王族だ。……………我々は騎士道において、君を守護する義務がある…」
「……また…王族か……!」
キッと、ローアンは鋭い眼光を投げ付けてきた。