亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

……暗い城内が覗く扉からは、言い知れぬ奇妙な空気が漏れ出ている。


………女の透き通った声に似た風。吹き込むそれは肌を撫で、再び城内に戻って行く。



…………記憶にある城というものは……少なくとも、こんなものではなかった。

………何故か、入り辛いものがある。


よく分からない緊張感を抱え、オーウェンは城内に足を踏み入れようとした。


………が、その途端、背後からオーウェンの前に素早い何かが降り立った。
ルアが全身の毛を逆立てて威嚇する。

「………ライマン?」

オーウェンの目の前には、戦場で牙を剥き、暗殺者の如く飛び掛かって来る真っ黒なライマンが佇んでいた。

………しかしこのライマン。妙に大人しいというか………敵意がまるで無い。
唸るルアに対し、相手にしている暇など無いとでもいうかの様にプイッと目を背け、暗い城内に駆けて行った。

…………何だ今のライマン。

獣の中でも地位の高い筈のルアが、あのライマンの前ではまるで子供同然だ。


「………行くぜ、ルア。……………お前は先に行って…ご主人を守れ」

ルアは言われた通りに、オーウェンを追い越して中に入って行った。




「…………嫌だねぇ……………何だか」



入って早々……真っ赤に染まった、真っ白な床が目に入った。





………六年前の、あの夜の光景と変わらない。


ここを警備していた兵士達の、悍ましい血痕。
………乾いてはいるが………六年も経過したとは思えない、鮮やかな血溜まり。


………死体は、無い。

飛び散った血と、腐臭の様な異臭が城内を彩っているだけで……残忍な人間の姿は忽然と消えている。





…………屍は………何処へ行った?


< 967 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop