今夜、俺のトナリで眠りなよ
 パタンと風呂場の戸が閉まる音を聞いてから、私は居間に戻った。

 すごく痛そうな傷痕だった。

 きっと痛かったはず。『ガキのころ』って言ってたけど、大怪我だったんだろうなあ。

 身体に大きな傷跡が残ってしまって、一樹君はどんな思いで傷と対面しているんだろう。

 私には想像できない。

「間に合った?」

 居間で新聞を読んでいた優樹さんが、声をかけてきた。

「あ、ううん。もうお風呂に入ってて。ドア越しに、タオルを置いておくって声をかけておいた」

 別に嘘をつく必要なんてないのに。

 つい優樹さんに、嘘をついてしまった。

「私、夕食の後片付けをするね」

 それ以上、聞かれたくなくて私は、ダイニングに広げたままになっている食器類を纏めて、キッチンへと持って行った。

 どうして私、嘘をついたんだろう。
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