魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラは猛烈に腹を立てていた。


「あの男って本当に無神経よね!信じられないわ!」


「ティアラ…どうして怒ってるの?」


割り当てられた客室にラスを連れ込むと早速椅子に座らせ、バッグの中から化粧道具を取り出した。

あまり人前に出る方ではないが、それでも身だしなみはしっかりとしておかなければならないと教えられていたので、ある程度の化粧道具は携帯している。

だが…ティアラからしてみたら、ばっちり化粧をして、ばっちりおしゃれをしてきた姫君たちは滑稽に見えた。


ラスはこんなにも無垢で、化粧もしていないのに真っ白な肌と、バラ色に近い唇の色をしているのに。


「あの男はこの状況を楽しんでるのよ。ああもう…あなたと魔王の結婚を応援するのは間違いだったのかしら」


「ティアラ…コーのこと悪く言わないで。約束したの。何があってもコーを信じるって。だから…私が頑張らなきゃ。コーも毎日頑張ってくれてるんだから、頑張らなきゃ」


今までもずっと頑張り続けていたのに。

リロイのことばかり考えてしまう自分自身が恥ずかしくなり、ティアラはラスに薄化粧を施すと、赤い口紅を塗ってやった。


「そうね、私も頑張るわ。ほらラス、鏡を見て」


俯いて顔を上げなかったラスがそう言われて目の前の鏡を見ると、見慣れない自分と目が合った。

今までおしゃれに興味がなかったが、コハクが“綺麗”と言ってくれるなら、なんでもしてみたい。


「ありがとうティアラ!これから…お化粧も頑張ってみようかな」


「あなたはそのままでいいのよ。魔王はそのままのあなたを愛してると思うからあの年増たちのことは気にしない方がいいわ」


「と、年増って…ティアラっ」


「私たちに比べたら年増よ。間違ってるかしら?」


椅子から立ち上がり、いたずらっぽく笑ったティアラと1度抱き合うと、ドアをノックする音がした。


「はい、どなた?」


「俺だし。チビの様子が気になってさ。チビ、俺に抱っこさしてくれよ。なんか足りねえ感じがするんだよ」


不安なのはお互い様。

ラスとコハクは、まだまだお互いが足りていない。

まだまだ――
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