魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
姫君たち3人と合流し、本来居心地の悪い思いをする立場のはずのコハクは、3人に声をかけることもなく、グラースと手を繋ぎながら帰ってきたラスに一目散に駆け寄ると抱っこした。


「遅かったじゃんかよ」


「遅くないよ、急いできたもん」


時間にして10分程度だったが、コハクにしてみたらその10分は1時間にも2時間にも感じられ、ラスを膝に乗せたまま座るとティーカップに熱い紅茶を注ぎ込んで手渡した。


「蜂蜜たっぷり入れといたからな。胸がもっとおっきくなってさあ、こう…もっとすげえことをさあ」


「色ぼけ魔王、姫君たちがドン引きしているからやめてくれ」


口数が少ない中何倍も痛烈に感じられるグラースの注意はコハクの心に全く響かず、サンドウィッチさえも持ってやって食べさせてやる有様で、肩を竦めて注意するのをやめた。


「コー、何か言ってあげて」


ラスからこそりとお願いをされて仕方なく視線を送り続けていたスノウたちを見ると、オレンジをくるくる回しながら器用にナイフで皮を剥きつつ笑いかけた。


「どうだ、綺麗になりそうか?」


「!ええ、大丈夫です綺麗にしてみせます!でも…傾いている家もあって…」


「じゃあ傾いた家は壊して新しく建てるかあ。そういう家を見つけたらドアに何か印をつけておけよ」


「はい!ラス、一緒に頑張りましょうね」


「うん!」


レイラに声をかけられて嬉しくなったラスが笑顔を爆発させると、コーフンした魔王は花のように切ったオレンジをラスの口の中に入れ、端にぱくりと食いついた。


…そして濃厚なキスシーンを見せつけられたレイラとエリノアが悲しそうな顔をして俯いたが…スノウは2人を見据え、睨みつけているようにも見えた。


グラースはその一部始終をくまなく見ていて、静かな瞳でスノウを見つめていると、スノウがそれに気付いてにっこり作り笑顔を浮かべた。


「相変わらずお熱いようで妬けちゃうわ」


「…今回の王国再建は2人が結婚するための条件だ。それを納得して来たんだろう?それとも別の目的があるのか?」


「別の目的?ふふ、そんなものないわ。私を疑ってるの?」


笑っているが、瞳は笑ってはいなかった。
< 236 / 728 >

この作品をシェア

pagetop