約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く


「……舞……」



小さく名前を呼び返して私の方を向く。



「今日の調子は?」

「うん……大丈夫……。

 今日も鴨ちゃんのお墓お参りしてきたの。
 お梅さんのお墓も一緒に……。

 空を見てるとね……そこで鴨ちゃんとお梅さんが
 笑ってる気がして……。

 ごめんね。
 花桜が居なくて、舞も大変なのに……
 私のことまで気にかけてくれて」



いつもより少し顔色が良くなった
瑠花が、必死に作る笑顔を私に向ける。


歴史は知りたい……。


歴史は凄く知りたいのに今の瑠花に、
これから起こる出来ごとなんて聞きだせない。


今は瑠花の回復が大切だと思えるから。



「ねぇ、瑠花。

 出掛けましょう?
 京の町には美味しいお団子屋さんがあるんだって。

 ずっとここに居たら、息が詰まっちゃうよ。
 出掛けよう?」


思い切って、瑠花に声をかける。



叶うなら……そのまま、
瑠花と二人……どちらの勢力にも属していない場所で
静かに暮らしたいとさえ考えてしまう。

そんなこと出来るなんて思ってもないけど……
ほんの少しだけ、夢を見たくなるのも確かで……。



少しだけ……。


私も含めて、瑠花にも気分転換をして欲しいだけ。



今は息が詰まりすぎるから。



消えた花桜が……正直、羨ましいって思える程度には
私も疲れてしまってる。



羨ましいなんて……
思っていいはずないのに。



本当の友達なら……もし花桜が帰っているなら、
喜んであげるべきことなのに……。



「今、お団子屋って言ったよね。

 近藤さんや土方さんに許可は貰ってるの?」



ずっと部屋で座り込んで無言だった
沖田さんが……柔らかい口調なようで、
どことなく責めるようなトーンで言葉を紡ぐ。



笑いかける口調とは正反対に目は……
笑っているようで、鋭さを増していて……。



「いえっ……。

 許可は……えっと……」



そうだ。


私たちは勝手に出歩けない。



信用されてないから……。

常に誰かが監視するように付きまとってるんだ……。



「……舞……」



私のイラついた顔が見えたのか、
瑠花がゆっくりと顔を上げて私を見つめた。



「……いいですよ……。

 仕方ないですね。

 私が近藤さんと土方さんに話をつけてきてあげます。
 ついでに……一緒にお供してあげますよ」



トーンも話し方も、その言葉の裏の黒さも
消えないままに告げられた思いがけない言葉。
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