約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く




「花桜、ごめん。
 池田屋、一緒にいけない。

 私は行きたいところがあるの」


「うん。
 大丈夫、また後で」




花桜は瑠花の想いを抱えて、
勢いよく池田屋の方へと駆けだしていく。



私もまた、草履を脱ぎ捨てて
晋兄を探しに行こうと覚悟を決めた時、
キラリと光る剣の切っ先が
私の視界に入り反射的に閉じられる目。



思わず硬直する体。



そのキラリと光った剣筋を見て、
慌てたように離れていく複数の足音。




えっ?




目を開けるとそこには、
土方隊として行動しているはずの
斎藤さんが、静かに刀を鞘へと納めていた。




「斎藤さん……」



その人は、懐から取り出した
布をビリビリと引き裂くと
無言で私の草履の鼻緒をなおしていく。




「これでいい」




促されるように、
もう一度草履に足をいれる。



「加賀には俺の用事を頼んだと
 副長に言っておこう」




彼はそう言うと、何も見えなかったように
土方さんたちの元へと戻っていった。 





大丈夫……。




歴史上、彼は今死ぬ人じゃない。






走り去った背中に静かに
お辞儀をして、私は晋兄を探して
京の町を走り回る。








池田屋事件。


池田屋事件が
起きる時間って何時ごろだった?




あぁ、なんでこんな時
すぐに答えが出てこないんだろう。



今、何時?



灯りがないと周囲を見ることが
出来ないくらい
視界が悪い夜道。




神経を研ぎ澄まして、
足音を聞き分けていく。






いつの間にか藩の
お屋敷らしき大きな建物が
立ち並ぶ場所へと迷い込んだ。





それぞれの屋敷門を警護する
武士たちの視線が私に向けられる。




新選組の羽織は着ていない。
真っ白いハチマキもとった。





ただ私の姿が、町娘の衣装ではなくて
着物に袴をあわせてる。




そんな小娘が、お屋敷通りを歩いてるんだから
疑われてもおかしくない。



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