約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く


未来から来たって言っても、
私はこの世界に残るって自分で決めた。



だから……この優しさに溺れていいわけない。
逃げ出していいわけないのに。 



「花桜ちゃん、そんなに思いつめたらあかんよ。
 もう少しゆっくりとしたらええ。

 そうや、加賀ちゃんも帰って来たで。
 気分転換に外で三人で遊んだらどうや。

 瑠花ちゃんに、加賀ちゃん、んで花桜ちゃん。

 三人には、この時代の事嫌いになって欲しいないわ。

 そりゃ、大変な事多い時代に感じるかもしれんけど、
 多分……この時間があるからこそ、
花桜ちゃんたちの時間に続いてるんやとわいは思う。

 わいの運命がどんなふうなんかは正直聞きたない。

 けど……今、わいが出来る事は精一杯やり遂げたい思うんや。

 そうやって生きる、わいの傍で花桜ちゃんが笑っててくれたら、
 そんなに嬉しいことないわな。

 ほな、仕事に戻る。無理せんと、ええ子にしてまたお土産まっときな。

 今度はお団子買って来るわ」


山崎さんはそう言うと、再び天井の方へと移動して
私の前から姿を消した。


何気なく聞いてたけど今、山崎さんに告白された?私。


思考回路停止中の私には、
そんな情報をササっと処理出来るほど
落ち着ける状況でもなくて、
だけど彼の優しい言葉は、
ほんの少しだけ外に出る勇気を取り戻させてくれた。


髪を手櫛で整えて、
結いなおすと、壁を頼りに立ちあがって
ゆっくりと部屋から庭の方へと出掛ける。


強い陽ざしと眩しさに
思わず掌で覆いながら、太陽の力を頂いて
深呼吸する。


耳を澄ますと隊士たちの練習する掛け声が
聴覚を刺激する。


沢山並ぶ木に括られた藁の束。
その藁に向かって、槍を突き刺す隊士たち。



思わず視界に移した光景に、
目を背けるように背中を向ける。


あの人たちは……こうやって
あの血だらけの戦場に出掛けていく。


そしてあの日の私と同じように
必死になって、誰かの命を奪ってく。


そう思った瞬間、再び震えだす体。

自らの両腕をガッチリ抱きしめて、
その場にたたずむ。


「山波、大丈夫か?」


ふと声をかけられたその人は、
私に最初、稽古をつけてくれた……人。



「斎藤、山波だって?」



そんな風に私を気遣う声を発しながら、
次々と周囲を取り囲んでくる隊士たち。


「大丈夫か?」


差し伸ばされた手をゆっくりと取って、
何とか立ち上がって深呼吸を何度か繰り返すうちに
ようやく治まってくる震え。



「ご心配おかけしました」

「無理はするな」



そう言って立ち去っていく斎藤さん。


「おいっ、お前たちも稽古に戻れ。
 長州が襲撃する日が近い。
 もっと気をひきしめろ」


稽古をつけていた藤堂さんの声が
屯所周辺に響き渡る。



「山波さん、今は傷を治してくださいね」

「また山波さんの笑顔見せてくださいね」



そうやって一言ずつ、何かのメッセージを伝えながら、
隊士の人たちは、それぞれの持ち場へと戻っていった。
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