約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く
私を気遣ってくれる声。
心配してくれる声。
ここに来たばかりの頃は、私たちはずっとよそ者で、
受け入れてもらうことなんて出来なかった。
必死で屯所の為に働いて、
働き続けた成果。
努力が実って、
勝ち取ることが出来た居場所。
やっぱり……私、この世界が好き。
ここに居る人たちが好き。
そして瑠花と舞と三人で……
ちゃんと元の世界に帰りたい。
その為には、この世界で生き抜く、
この世界を渡り切る強さが欲しい。
このままじゃいけない。
ちゃんと前に進まなきゃ。
そんなことを想いながら、
再び、逆側の庭へと足を進めていく。
この勝手口のドアから続く先には、
芹沢さんたちが眠るお墓がある。
お寺の境内で駆け巡る子供たちの声を聞いたら、
少しは何か変われるかな?
そんなことを想いながら、足を進める私の耳に届く、
ケホケホっと言う軽い咳の音。
咳=結核。
結核=沖田総司。
瑠花に散々聞かされてきたから、
嫌でも覚えてる……そんな式が脳内で成立して
私は、その咳の聞こえる方へとふらふらと歩みを進めた。
庭に敷き詰められた、賊防止の石を踏みしめた途端に
周囲に広がる殺気。
「山波花桜」
相変わらず咳が続く中、その人は私の名前を呼んで、
抜きかけた刀を鞘に戻して口元を手で拭う。
「沖田さん……」
慌てて彼の傍に駆け寄る。
彼はゆっくりと、
立ちあがっていつもの貌。
「咳……何時から続いてるんですか?
瑠花は?
瑠花は、咳の事知ってるんですか?」
沖田さんを問い詰めるように、
一気にまくしたてる声。
「山波、声が大きいよ。
瑠花は知らない。
それより、君……覚悟は決まったの?
どんな大義をかざしても、物事は所詮、
人の犠牲の上に成り立つもの。
どんなに綺麗ごとを並べても、人殺しの大罪から
逃れることは出来ない。
僕はね……芹沢さんから託されていたものに、
二人をこの手にかけた後から気が付かされた。
彼から託された重みを知った時、
僕は僕自身のこの身が滅びるまで
その使命を背負い続けたいと思った。
その罪を抱きながら。
だから僕は、こんな時に倒れてなんか居られないんだ。
瑠花のいった通り、君たちの未来の通り
もうすぐ僕自身が終(つい)えるとしても。
山波、本気で未来に三人で帰りたいと望むなら、
その目的の為に、君も覚悟を決めるといいよ。
例え、どの命を犠牲にしても未来に戻ると……
どんな大罪を犯しても、叶えたい目的の為に手段は選ばないと。
自ら、鬼の道に踏み込むことも
時には必要だってことだよ」