約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く



「舞。

 そんなに振り乱してどうした?」




えっ?


思わず、我が目を疑う存在が
会津藩の者たちの前で声をかける。



だんだら羽織を身に着けて。



「騒がせてすまない。
 俺の知り合いだ。

 何か急用があったんだろう。

 すまないが刀をおさめてくれないか」



やけに馴れ馴れしい素振りで近づいて来たその人に
引っ張られるようにその場所から連れ出される。



逆らえない強さで一方的に引きずられるように
歩いていたのに、ふと緩められる力。



その瞬間、腕をふりほどいて、
頬を掌で打ち付ける。


パシーンっと、静まり返った空気の中、
ひときわ大きく響く音。



「私にはやらなきゃ行けないことがあるの。
 なんで邪魔するのよっ!!」



大声で叫ぼうとした声は、
彼の手で口を塞がれて
モゴモゴとくぐもった声にしかならず……。



「学習しろ。

 加賀だったか、加賀が助けたいのは
 あの日お前を迎えに来た長州のヤツラだろ。

 お前一人で乗り込もうとも、どうにもならん。

 その場でヤツラに切り殺されて終わりだ。
 その命、無駄に散らせたいか?」



滅多に話さない、口数の少ない印象しかなかった
その人が低いトーンで淡々と告げる。



「でも私……晋兄と義兄を……」


……助けたい……。

「今、仲間が様子を探っている。

 山波が君を心配している。

 共にいれば何らかの情報が入るだろう。
 今は来い」 



彼、斎藤一はそう言うと私の前を、
ゆっくりとした足取りで歩いていく。


そうして連れられた先には会津藩によって命じられた場所で、
門番の職務についていただんだら羽織の集団が屯っていた。



「斎藤何処に行っていた?」

「すいません。副長。
 加賀の声が聞こえたので迎えにいってました。
 山波が会いたがっていたように思いましたので」


そう伝えると花桜さんが嬉しそうに、
羽織を翻して私に抱きついてくる。



「もうっ、舞っ。
 ホント、心配したんだよ。

 何で、黙って消えちゃうのよ。
 瑠花も……瑠花も心配してたんだから……」



そう告げる花桜の背後から「まだ疑いが晴れたわけではない」っと
言わんばかりに殺気を纏って睨みつける……人……。



すると花桜が、その視線の方にクルリと向き直って
一発、平手打ち。

さっきの私より、激しい音を響かせる。


「土方さん。
 いい加減にしてください。

 そうやって、疑ってばかりいても何も始まらないでしょ。
 信じることを知らない人は弱虫です。

 信じることが出来ない人は、誠を知らない人です。
 いい加減にしたらどうですっ!!」
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