愛を教えて
皐月の手にソレがあることは知っている。無論、そこに書かれてある内容も。

卓巳の背中は真夏のように、びっしりと汗を掻いていた。


(万里子の前で、すべてを明らかにするつもりか? どうしても、破談にしたいのか?)


グッと握り締めた拳が、突然温かいものに包まれた。
卓巳は驚いて下を向く。袖を握り締めていた万里子の指が、今は卓巳の手に添えられていた。
信じられない思いで、卓巳は顔を上げる。

万里子の頬には涙の跡が残っていた。
なのに、卓巳と目が合った瞬間、花がほころぶように笑ってくれたのだ。
思わず微笑み返そうとして……卓巳は自分がガチガチに緊張していたことを知る。

大きく息を吐き、そしてゆっくりと吸い込んだ。

指先から力を抜いて、万里子の指の間に差し込む。彼女のしなやかな細い指に自分の指を絡め、しっかりと握り締めた。



「まあ、皐月様! そういったものがあるなら、わたくしたちにも早く見せてくださればよろしいのに!」


尚子の顔に、再び意地の悪い笑みが広がる。
叔母ふたりは獲物を見つけた肉食獣さながら、舌なめずりせんばかりだ。

卓巳は本物の獅子で、そう簡単に食われる男ではない。だが、今の彼は手負いの獅子……。死肉を漁るジャッカルの餌食となりつつあった。


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