愛を教えて
卓巳にとってケーキのイメージはひとつだけ。イチゴの乗ったクリスマスケーキのことだ。
二十年近く前、施設で食べたそれだけが、思い出に残っている。


「そう……だな。ケーキは施設でクリスマスに食べさせてもらった。だが、手作りかどうかはわからない。ああ、そういえば……小六のとき、隣のクラスの女子からクッキーをもらったな」


――藤原くんはあんまり食べられないでしょう? 可哀相だからあげるね。


そんな言葉と共に渡された家庭科の授業で作られたクッキー。
卓巳は悔しさのあまり床にぶちまけた。当然、彼女は泣き出して、クラスメートには責められ、教師からは叱られた。さんざんな思い出だ。


「それ以来、手作りは避けてきた。あのころは、同情ってヤツが一番苦手でね。悔しくて、我慢できなかったんだ」


そんな卓巳の言葉を聞き、万里子はポツリと呟いた。


「それは同情じゃないと、思いますけど」

「同情でなければなんだ? 可哀相、と言われたんだぞ」

「好きだから、じゃないでしょうか? 家庭科で作ったお菓子をあげるのは好きな人だけですよ。他に男の子もいて、恥ずかしくてそう言ったんじゃないですか? 余ったから、なんて言ったりもしますよ」


目から鱗が落ちる、とはこのことだろうか。
卓巳はニッコリ笑って話す万里子を見つめ、呆然とした。


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