愛を教えて
宗は卓巳に一歩近寄り、声を潜めた。
「例の――契約書です。失礼ながら、社長と万里子様とのご関係は、普通の新婚夫婦にしか見えません。ならば、危険なものはさっさと処分されたほうがよろしいかと」
「いや……まだ、だ。もし私が失脚した場合、あれがあったほうが彼女に有利だろう」
「さあ、どうでしょうか? 万里子様が本気であるなら、あまり意味のないものだと思います。それとも、奥様の気持ちが揺らぎそうなお心当たりでも?」
卓巳の視線の先にガゼボがあった。
挙式後、ふたりが鳴らした鐘に、今は若い女性が群がって記念写真を撮っている。万里子と同じ、聖マリアの友人たちらしい。
卓巳は式のことを思い出しているのだろうか。
その割に、口元は悲しげに歪んでいた。
「宗、お前の言うとおり、万里子は名実共に私の妻だ。彼女を幸せにしてやりたいと思っている。だが、私は幸せな家庭も、愛し合う夫婦も知らない。こんな私のそばにいて、彼女は幸せになれるのだろうか? だから、いつでも私から自由になれるようにしておいてやりたい」
卓巳の言葉を、信じられない思いで宗は聞いていた。
(この人は……不器用にも程がある)
「例の――契約書です。失礼ながら、社長と万里子様とのご関係は、普通の新婚夫婦にしか見えません。ならば、危険なものはさっさと処分されたほうがよろしいかと」
「いや……まだ、だ。もし私が失脚した場合、あれがあったほうが彼女に有利だろう」
「さあ、どうでしょうか? 万里子様が本気であるなら、あまり意味のないものだと思います。それとも、奥様の気持ちが揺らぎそうなお心当たりでも?」
卓巳の視線の先にガゼボがあった。
挙式後、ふたりが鳴らした鐘に、今は若い女性が群がって記念写真を撮っている。万里子と同じ、聖マリアの友人たちらしい。
卓巳は式のことを思い出しているのだろうか。
その割に、口元は悲しげに歪んでいた。
「宗、お前の言うとおり、万里子は名実共に私の妻だ。彼女を幸せにしてやりたいと思っている。だが、私は幸せな家庭も、愛し合う夫婦も知らない。こんな私のそばにいて、彼女は幸せになれるのだろうか? だから、いつでも私から自由になれるようにしておいてやりたい」
卓巳の言葉を、信じられない思いで宗は聞いていた。
(この人は……不器用にも程がある)