愛を教えて
「いや、しかし、万里子様ご自身が、もう社長から離れたくないとおっしゃるのでは? それに、愛に満ちた家庭で育っても、幸福になれぬ者は大勢いると思われます」

「ならいいがな。契約を無視して彼女を口説き、妻にしてしまった。これは私の罪だ」

「社長……」


宗はハッとして動きを止めた。

視線を披露宴会場に戻した瞬間、植え込みの向こうに万里子を見つけた。
その傍らに、見覚えのある顔が……。
報告書に添えられていたのは、集合写真から切り取ったような小さな写真だったが、間違いなく、四年前“中絶同意書”に署名した人物、香田俊介だ。


「社長、あちらに日銀の副総裁がお見えです。ひと言ご挨拶されたほうが」


宗は平静を装い、卓巳の気を引こうとした。

だが、すでに卓巳は、万里子を視界に捉えていた。
しかも、その双眸は一瞬で炎上する。宗にもわかる、嫉妬という名の炎に。


「いや、その前に、挨拶しておきたい人物がいる」


地獄の底から聞こえてくるような、卓巳の声だった。


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