愛を教えて
「すまない。本当に悪かった。反省している。どうか、許して欲しい」


ふたりは卓巳の部屋で初夜を迎えた。
新婚旅行は、万里子の大学が冬休みに入ってから、と決めたからだ。
卓巳は部屋に戻り、ふたりきりになるのを待ち構えて、大袈裟なくらい謝罪の言葉を口にした。


「いえ……私も悪かったんです。皆さんにお祝いの言葉をいただいて、忘れていました、私たちが偽装結婚であることを。もう二度と、あなたを見ることはしません。卓巳さんも、私に触れたり口づけたりなさらないでください」


言葉どおり、万里子は卓巳を一切見ずに話す。
その態度に卓巳は愕然とした。


「もし、お約束を守ってもらえない場合、私は契約書どおり、実家に帰らせていただきます」

「本気で言ってるのか? どれだけ謝っても許してはもらえないのか?」

「謝っていただいても困ります。私は別に、怒ってなどいませんから。卓巳さんのことを信頼しております。何もしない、とおっしゃった言葉を信じて、あなたの妻になりました。それだけ……です」


卓巳は決して目を上げようとしない万里子に苛立ち、彼女の両腕を掴んだ。
そして、口づけるようにその顔を覗き込む。

その瞬間――万里子は怯えた目をしてうつむいた。


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