愛を教えて
そこまでは呆気に取られ、眺めていた万里子だったが、にわかにふたりを止めようと思い立つ。


「ちょっと待って、雪音さん。永瀬さんも落ちついてください。あの……卓巳さんが秘書の方と、どうなさったというの?」

「まあ、その秘書って私のことかしら?」


万里子の耳に女性の声が聞こえた。

玄関の扉を押し開け、入ってきたのは卓巳の第一秘書、中澤朝美だった。


「あの……確か」

「社長秘書の中澤です。結婚式当日にご挨拶させていただきましたが、お忘れですか?」

「いえ、覚えています」



結婚式の直前、卓巳から優秀な秘書だと紹介された女性だ。

あの日の朝美は、フェミニンな黒のワンピースを着て、白い大きなコサージュを付けていた。
今は、落ちついた淡いブラウンのスーツ姿である。
髪をきちんと結い上げ、脚を揃えて立つ姿は隙がない。

朝美は全身から自信を漂わせていた。


『お母様が会長と同じ、やんごとなきお血筋なのですって? お父様は社長で、有名なお嬢様学校に通っておられて……羨ましい限りですわ。私の実家はごく普通のサラリーマン家庭……いわゆる、庶民ですもの』


そばに卓巳や宗がいなくなった途端、朝美は口にした。
笑みは浮かべているものの、目は笑っていない。それに気づいた瞬間、万里子は悪寒を覚えた。


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