愛を教えて
母という雪の女王は、卓巳の胸の奥深くに“氷の棘”を突き刺した。
卓巳は心を凍らされ、孤独の中で生きてきた。

それが、万里子と出会い、初めて触れた愛によって“氷の棘”は溶け始めたのだ。

しかし、その棘には毒があり、溶けるごとに過去の痛みを卓巳の中に呼び覚ます。

苦しさのあまり、卓巳は万里子から離れる道を選んだ。

しかし万里子から離れたところで、最早、その痛みは治まらない。


――愛を取り戻す。


卓巳は愚か者だが、臆病者でも卑怯者でもなかった。
どれほどの痛みを伴おうとも、今度ばかりは目的を達するまで、引き下がるつもりはない。


過ちを正して、彼女の愛を挽回したい。
もう一度、万里子と向き合えるチャンスが欲しい。

それだけだった。



「宗……本当にこれでいいんだろうな?」

「そう言われましても。私はただ、万里子様の関心を引くためでしたら、ヤキモチを妬いていただくのが手っ取り早いと言っただけです」


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