愛を教えて
「いやじゃなかったか? もう少し長くても大丈夫?」


組み伏せられた格好なのにまるで重みを感じない。
互いの体が直接触れないように、と卓巳が気遣ってくれているおかげだ。


「昨日もキス……しました、よね?」

「そうだね。もう少し、長いのを……たくさん、した気がする」


ふたりの言葉が途切れるのは、小鳥が啄ばむような短いキスを繰り返しているからだった。


「万里子、早く返事をくれないと約束を破りそうだ」

「か、会社は構わないんですか? 時間は?」


遮光カーテンに囲まれて外の様子はわからないが、今はもう朝だと卓巳が教えてくれた。
卒業を待つだけになった万里子の大学より、卓巳の仕事のほうが重要度は格段に上だろう。


「僕を誰だと思ってるんだ?」

「藤原卓巳さん……ですけど」


真面目に答えた万里子に、卓巳は信じられないほど心を許した笑顔を見せる。


「そう、これでも社長なんだ。だから、定時に出社しなくてもクビにはならない」  

「あの……卓巳さんのキスなら平気です。昨日より、少しなが」


……長くても大丈夫です。その言葉は卓巳の唇で遮られた。



そしてこれは、ふたりにとって、新婚生活の始まりの朝となる。


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