愛を教えて
「辛くなったら代わりますから」


そう言うと、彼女は大粒のイチゴを水で洗い、丁寧に拭いたあと、ふたつに切っていくのだった。



卓巳の決死の告白から一週間が過ぎ、ふたりは今、藤原家の調理場にいた。

そこは一般家庭の台所とは違い、まさに調理場と呼ぶにふさわしい広さがある。普段は住み込みのコック一名と通いのコック二名がここで働いていた。

コックたちは新婚夫婦の様子をワクワク、いや、ハラハラしながら離れて見ている。


今日は卓巳の三十回目の誕生日だった。


『イチゴのケーキがいい』


そんなリクエストを出したのは卓巳本人だ。
約束どおり、万里子は作り始めたわけだが……そこに卓巳が乱入してきた。

休日出勤の予定がありながら、宗が迎えに来るまで手伝うと言って聞かない。
そこで、万里子は腕の疲れる生クリームのホイップを任せることにした。


「最初はゆっくりと、泡立ってきたら、そうっと、空気を中に含ませるように混ぜてください」


そんな万里子の指示に、


「千切りもみじん切りもできる。味噌汁もダシから取るし、玉子焼きもキレイに焼けるんだ。でも……泡立て器で生クリームを泡立てたことはない」


万里子から借りたピーターラビットのエプロンをつけ、ブツブツ言いながらも口元の緩む卓巳だった。


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