愛を教えて
「卓巳さん、お誕生日おめでとうございます」

「……ありがとう」


心なしか卓巳の声が震えて聞こえた。


「あ、すぐに灯りを点けますね」


万里子がリモコンを手に電灯を点けようとした瞬間、横からふわっと卓巳が抱きついた。


「どこか痛かったら言ってくれ。少しでいい。しばらく、このままで……」

「卓巳さん」

「三十年間、生きてきてよかったと、やっと思えた。この世に生まれてきてよかった。初めて、両親に礼を言いたい」


以前、卓巳に押し倒されたソファに万里子は座っている。

今日の卓巳はそんな乱暴な真似はせず、ただ、壊れ物を抱き締めるようにそうっと包み込んだ。卓巳の温もりに万里子は癒やされ、太一郎から与えられたショックが少しずつ和らいでいくのがわかった。


だが、卓巳の指先が万里子の頬に触れ――。


「ごめんなさいっ」


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