愛を教えて
キスの気配に、万里子は卓巳を押しのけ、顔を背けてしまう。


「すまない。痛かったかい? 勘弁してくれ」


卓巳は傷に触れたと思ったようだ。

慌てて謝るが、それは決して卓巳のせいではなかった。


――太一郎にキスされた。

万里子の唇は卓巳のものだった。その大切なものを汚してしまったようで、万里子は申し訳なくて仕方がない。

だが、卓巳に話すつもりはなかった。卓巳が知れば、再び太一郎を殴りに行くだろう。


「万里子? 具合が悪いのか? すぐに救急車を」

「違うの。本当に大丈夫だから……ただ、二度とあんなふうに人を殴ったりしないでください。お願い、約束して」


卓巳は少し視線を泳がせ、聞き分けのない少年のような口調で答える。


「できない」


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