愛を教えて
だが卓巳も、万里子の痛みが唇ではなく、別のところにあると気づいたらしい。


「ずるくないか、万里子」


卓巳は少しふざけた口調で口を尖らせた。


「え? あの」

「僕のことは引っ叩いたくせに、奴にはお咎めなしなんて」

「それは……」


少し悩んだが、万里子もすぐに思い出した。
オーナーズ・スイートで契約を交わした日のことを言っているのだ。

卓巳は自分の左頬を擦りながら、


「結構効いた一発だったな」

「いいんですか? そんなことおっしゃって」

「え?」

「どうして叩かれたのか……私になんておっしゃったか、思い出してみてください」


卓巳はあの日の失言を思い出したようだ。手が頬から口に移動し、口元を押さえたまま黙り込む。

万里子はクスッと笑って、卓巳の胸に身体を預ける。卓巳は何も言わず、万里子の身体を優しく抱き締めた。


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