愛を教えて
「ホント、汚ねぇ女だな、お前は」

「だから何? あたしがいつ、あんたに万里子を襲えって頼んだ? あんたが狙ってるって言うから、力を貸してやっただけじゃない。あのガキだってそうよ。勝手に欲情して押し倒したのはあんたじゃない」


悔しいが、太一郎には言い返す言葉もない。

卓巳に殴られた傷は、医者の診断どおり酷くはなかった。ナイフを掴んだ傷と、心に受けた傷のほうが深い。

あの日から、ほとんどをベッドに潜り込んだままで過ごしている。そのせいか部屋は妙に男臭く、饐えたような匂いが漂っていた。


あずさは言い負かしたのが嬉しかったようだ。

少し鼻を曲げながら、それでも太一郎の背中を擦り、股間に手を伸ばしてくる。


「ねぇ、最近セックスしてないんじゃないの? あたしが可愛がってあげましょうか?」


その瞬間、あずさを突き飛ばした。


「失せろっ、クソ女! お前を抱くくらいなら、八十のババアを抱いたほうがマシだ!」

「言ったわね。あんたには野良犬のメスがお似合いよ!」


顔を真っ赤にして、あずさは部屋を出て行く。


勢いよく閉まったドアに向かって、太一郎はグラスを投げつけた。

しかし、奥のベッドから投げたグラスはドアまで届かず、中央に置かれたパーティションに当たって砕け散る。

周囲には割れたグラスの欠片とアルコールの匂いが広がった。


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