愛を教えて
二回ほどドアをノックしたが、返事はない。

万里子が渡り廊下のほうに視線をやると、美和子と悠里が首を左右に振った。

何度も「おやめになったほうが」と言われ、浮島や雪音を呼んでくるというのを万里子が断った。

彼らにも、反対されるのは目に見えている。


だが万里子は自分の言葉を証明したかった。

彼女自身が卓巳に言った『許す』という言葉。

その重さを、そして勇気を。

乗り越えるべき試練は形となり、このドアの向こうにある。


万里子は合い鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回した。そして、猛獣の檻に足を踏み入れた。



そこは数日前とは違い、薄暗かった。カーテンも開いておらず、電気も点いていない。部屋全体からむせるような匂いがして、万里子は眉を顰めた。

万里子がテーブルの近くまで進んだとき、部屋の中央で何かが光った。

目を凝らすと、床の上にガラスの破片が散らばり、常夜灯の明かりに反射してキラキラしている。

周囲にはグラスの残骸が転がっていた。


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