愛を教えて
この間は見る余裕もなかったが、太一郎の部屋は、万里子たちの部屋のリビングと同じくらいの広さだった。

奥にベッドが置いてあり、太一郎はそこにいるらしい。

ひと部屋なのだが、グレーのパーティションで仕切られているため、ベッドの全体は見えなかった。


万里子はテーブルの上に、静かにトレイを置いた。

ハムと玉子のサンドイッチとポテトサラダに野菜ジュース――食欲がなくても簡単に食べられるように、と万里子がコックに頼んだメニューだ。


できる限りガラスを踏まないように、万里子は慎重に進んで行く。

ベッドの正面に大きなフランス窓が見えた。そこからテラスに下りられるらしい。


万里子は覚悟を決めるとベッドの横を早足で通過し、一気にカーテンを開けた。

そしてそのまま、床から天井まである大きな窓を全開にしたのである。

澱んだ室内の空気が一斉に外に押し出され、十二月の寒風が太一郎の部屋に吹き荒れた。



「なっ、なんだよ、これ!? お、お、お前……なんでここに!?」


エアコンで温められた部屋が急激に冷やされる。

突然の寒さにビックリしたらしく、太一郎はベッドから飛び起きた。


「何、勝手なことしてんだよ」


太一郎は無精ひげを生やしただらしない姿だ。それに、言葉には力もなかった。


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