愛を教えて
万里子は身体の前で手を組み、気持ちを引き締めると顔を上げた。そして、太一郎を正面から見据える。


「あれから何日経ってると思っているんですか? 一度も出て来ないなんて。この季節だから多少は平気かも知れませんけど、シーツだって……」

「うるせぇんだよ! 放っとけ!」

「放っておけません!」


万里子の大きな声に太一郎のほうがビクッとする。


「安西先生に精密検査に来るように言われたのでしょう? それも行かないままで……。卓巳さんに殴られた傷、まだ痛みますか?」


太一郎が心配と言うより、卓巳の暴力が原因で太一郎に何かあってはいけない、という思いが先に浮かぶ。

そんな万里子の思惑が伝わったのか、太一郎は寂しげに笑って答えた。


「死にやしねぇよ。第一、俺が死んだほうが嬉しいだろ。そのほうが、みんなも喜ぶし」

「ちゃんと謝ったら許してくれます。太一郎さんさえ心を入れ替えたら、ご両親もおばあ様も、それに、卓巳さんだって」

「お前、馬鹿か? 俺がお前に何をしたか、一週間も経ってないのに忘れたのかよ? こんなとこに入ってきて、マジで犯すぞ!」


太一郎はどすの利いた声で万里子を脅しつつ、床に足を下ろした。


「もう……二度としない、頼むからやめてくれって……私は覚えています」


万里子は震える声で言い返す。


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